輪郭を奪う
- たかはし
- 2017年8月15日
- 読了時間: 2分
被災地を撮影した映像を見た。高速道路に乗る車から車外を写すカメラは、どうやらあるとき誰かが住んでいる地域から帰宅困難地域を縦断し、その景色を写していたらしい。その映像で一山越えた地域がどうやら帰宅困難地域らしいのだけど、さっぱり違いがわからない。いつ「あちら側」に来ていたのだろう。小さい山が2つの地域を隔てているけれど、景色は大して変わらない。木々の緑は相変わらず緑色だ。
トーンカーブをいじってみようか。緑をグッと強めにね。そのあとRとBは下げてみよう。高速道路の地面のグレーも強い緑色になるだろう。木々の緑も目で見た色を失って、もっと鮮やかな緑色になる。こちらとあちらだけでなく、高速道路を走る車とその外の障壁も輪郭が溶解されて漏れ出してくる。
映像の感想を言う立場にあった私は、その様子を恋愛映画の構造に似ているという話をした。あちらとこちらを隔てている隙間はあるとき許可を得て縦断する権利を得るのだと。その権利を得る様子を写すのが恋愛映画だと。だから隔たりを映さねばならず、通行許可証も映さなければならない。
いつしか恋愛映画は通行許可証を発行することなく、トーンカーブをチョチョイといじって擬似的な溶解を楽しむようになるのなら、私は映画みたいな恋愛をしてみたいものだ。
Comments